オーストラリアのワイン産地「ジーロング」
今回私は、ヴィクトリア州東南のギップスランドとは逆に西へ向かったGeelongへも訪問してきました。
ジーロングはメルボルンの次に大きな町で、こちらもまあまあ遠い場所でしたが、ギップスランドに比べたらとても近く、ヴィクトリアの中心地(メルボルン)から車で1時間ちょっとぐらいの場所にあります。
海に近いワイン産地ジーロング
ヴィクトリア州のジーロングは海に近い産地。しかし、同じく海に近いモーニントン・ペニンシュラとは違い年間降水量が450㎜とかなり乾燥していて霧はほとんど出ない場所です。
なぜ、ジーロングは乾燥地なのかと言いますと、この産地の南には南極海に面した海辺の崖に沿って、グレートオーシャンロードという有名な道路がありその内陸には国立公園でもあるオトウェイ山脈が広がります。
この山脈がレインシャドーとなるため、山に振り注ぐ雨はジーロングには届かず乾燥した地域になるのです。そのため灌漑が必要な場所となります。
しかし乾燥しているため暑いように思われるのですが、暑くて寒いユニークな産地なのです。
そして土壌は石灰岩です。
ちなみにギップスランドはジーロングの3倍の1200~1300㎜ほど、ヤラヴァレーは900㎜、モーニントンペニンシュラは800mmほどの降雨量で、ここがいかに特別な場所であるかがわかると思います。
バノックバーン・ヴィンヤーズへ訪問
今回私はジーロングにある「バノックバーン・ヴィンヤーズ」へ訪問しました。
バノックバーンとはこのあたりの町の名前でもあります。
そして、ワイナリーを案内をしてくれたのはシドニー出身の醸造責任者、Matto Holmesさん
彼はハンターヴァレーのワイナリーをスタートに、イギリス、フランス、イタリア、ニュージーランドでも働き2005年にこのバノックバーンで働きはじめました。
しかし、その後もまたワインメーカーとしてカナダとカリフォルニア、ヴィクトリア州のモーニントン・ペニンシュラのワイナリーを経て、2015年に戻ってきたという世界中でワイン造りの経験をしてきた方です。
私は少々意外に思い、なぜカナダ選んだの?と尋ねました。するとマットは「それは・・・彼女がいたから」との返答で、とても和みました(笑)
そして世界中でワインの栽培醸造を経験できた私はとてもラッキーだよ!と振り返りながら話してくれる姿が印象的でした。
ここ、バノックバーン・ヴィンヤーズには小さな湖のような広大な灌漑用貯水池があり、その池を囲むように50haほどの畑が存在します。
栽培品種はリースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、シラーズ、ガメイ、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー。
ガメイ種は2019年に植えたもので、今年2年目のワインが出来上がる予定の様で、これはあくまでこの地がガメイに合っているのかを検証しているとのことでした。飲んでみたいですね。
他に試作段階として、一部のシャルドネはタマゴ型のテラコッタタンクで醸造熟成させ、樽使用のないスタイルにしています。
また、ソーヴィニヨン・ブランは逆に樽で時間をかけてゆっくりと熟成させています。
ニュージーランドのようなキリリとした酸と爽やかさを前面に出すタイプではありません。
野生酵母発酵熟成なので、よりリラックスしたスタイルのワインに仕上がるそうなのです。
私のショップではバノックバーンの「1314a.d.ブラン 2020年」というソーヴィニヨン・ブランとリースリングとシャルドネをブレンドしたユニークなワインを販売しているので、「あのワインも美味しいよね」と伝えると、
なんとあのワインは生産量が少なかった2019年と2020年のみ、良い葡萄だけを組み合わせたワインなのと言うのです。
そのワインは、爽やかさとまろやかさが調和した飲み心地の良いワインで評判も良く、現在造っていないというのは残念でなりませんでした。
バノックバーンのワインを試飲
その後、マットは「セラードアがなくてごめんね」と言いながら、白2種類、赤3種類の素晴らしいワインを試飲させてくれました。
その中でシャルドネはセイヴォリーさが感じられフルーツよりスパイスの香りが支配していました。
マットはこのセイヴォリーな香りは私たちが望んでいるのではなく石灰岩土壌の影響で、世界中でワイン造りに携わってきて思うのだけれど、場所によっては土壌の影響がでないところもある、しかし、ここバノックバーンはワインにその影響がとても出る場所なんだよ。
シャルドネは最も土壌の影響を受けやすい品種だから非常に面白いと説明してくれました。
続いてシラーズ100%の2023年を試飲
若いながらタンニンがとてもシルキーで嫌みがなく心地よさを感じる味わい。スムーズでとても良いワインでした。濃さもあるのだけれどエレガントさも感じられ、お料理によっては和食にも合わせられると感じました。
ヴィクトリア州は温暖化!?
その後も色々な話をした中で天候についての話が興味深かった。
今のヴィクトリア州は温暖化とは逆に向かっていているようなのです。
これはどういうことかというと
ヴィクトリア州は夏があまり暑くならず、2020年は特に南半球でありながらクリスマスシーズンは16度!ダウンジャケットを着ている人もいたぐらいで、とても海で泳ぐ気にはらなかったようです。
たぶん2019年に起きた「ブラックサマー」と呼ばれる大規模な森林火災が影響しているのではないかということでした。あの火災から気温が上がらなくなり、また温かくなるペースが1か月ほどずれていると感じるそうで、温暖化と言われているけれど、オーストラリアは逆に寒くなっていってる。
近年では2020年と2021年は寒くて雨が多く、2022年と2023年は乾燥した年になったということでしたが
私はこれまでバノックバーンの2020年ワインを飲んできてそこまで雨量の多さを感じることはなかったのは、マットの技術力によるものなのかもしれません。
マットの想い
そんな素晴らしい腕前のマットとの話も終盤、彼の深い想いに触れました。
人生初のワイナリー(ハンターヴァレー)に務めた時の事
彼に醸造を教えてくれた方が「僕が知っていることはすべてを君に教えてあげるよ!
でもね、たとえ全てを伝えたとしても僕の造るワインと君の造るワインは全く違うものになる。
なぜなら、その認識はあなた自身の認識にすぎないから。そして、あなたの視力はあなた自身の視力であり、あなたはあなた自身のやり方で進化していくからだよ。
だから自分でこれはすごい!と思ったことや経験したことを独り占めすることはしてはいけない
シェアしていくことが大事だ」と教わった。
だから自分が若い頃に学んだことを今は逆に、自分が若い子たちに自分ができるすべてを伝え教えている。知識を共有し、情報を共有することで、自分自身に不利益を及ぼすことはなく、みんなの知識が集まって1本のワインになっているんだとマットは話していました。
私は彼らのワインに触れ、話をしながら、バノックバーンの素晴らしさ、彼らの情熱を消費者の方々に伝えていきたい!と深く思いました。
それと同時に現地へ行くこと、ワイナリーの方と話すること、経験することの大切さを改めて感じた1日でした。
静岡市の宿場町「丸子」にあるワインショップ、wine cellar マツキヤの代表をしております。
ブルゴーニュワインを中心に日本ワイン、世界のワインを当店セラーにて揃えております。
WBSワインブックススクールのソムリエ試験のメンター・講師も務めています。